私の見てる世界は本物ですか?
私の中にある想いは本物ですか?
私の真実(ほんとう)は本当に本物ですか?
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──ある日、私の元にやって来た一つの懐中時計。
十何年ぶりの修理の依頼。
私はとある街の、小さな時計職人(オルロジェ)。
そこにいる、本当のキミに会いたいな。

このお話に正解はありません。不思議なひとときを心のままにお楽しみ下さい。──兎禾。
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──止まったままの、懐中時計。
私はそれを受け取って。
いつも通り、ネジを外して分解すれば。
欠けた歯車を入れ替えて、油を差して、重ねた指でゼンマイを巻く。
音を立てずに動き出した時計の針は、ただ前へと、前へと進んでく。

右回り。
追いかけて、追いついたら、また追い越して。
同じ場所を通ってグルグルと。
その場所に、一度しかないこの瞬間(とき)を何度も重ねて。
時計の針は、形のない「時間」を今に描いて、懐中時計の中に閉じ込める。
…………
……タク。
チクタク。
チクタク。チクタク。
ここにない「音」。
瞳を閉じて、耳をすませば、私の中で、音のない世界に音は生まれるの。

ゆっくりと、流れ続けるこの場所で。
視線を逸らした、数秒間。
瞳を開けて視線を戻した先で、時計の針は一瞬止まって見えた。

そう、きっとそれが真実。
私の目では追えない間隔で、確かに時計の針は一瞬止まってる。
だけどそれを私は認識出来なくて。
止まった針を、私の頭は動いていると、私に言う。
私の頭は予測して、そうであるだろうと、あるべき答えを、私に言う。
だから私はそうであると頷いて。
私はあるべき答えを、心に描いて、理解する。
それはきっと、これから先も変わらずに──
辿り着くことの出来ない、真実(ほんとう)の世界がそこにはあるの。

心は、いつでも「何か」に「何か」を重ねてる。
彼は誰(かはたれ)時には心躍らせ希望を抱いて。
黄昏時には心は憂い明日を失くす。
私の中で、確かに引き合う、想いと心。
流れる世界で、映る景色はもう無垢なままとはいかないけれど。
いつも歪んで届く景色は、想いを重ねて作る、私の世界。
偽りだらけの本当の世界が、ここにはあるの。
──それならね。
私の頭が追いつく前の、ほんの一瞬。
左の胸と頭の丁度中間に。
目に映って頭に届くまでの時間の中に。
私の知らない、真実(ほんと)の本当は詰まってる。

まるで不思議の国の住人みたいに。
私はいつも世界を彷徨って、そこで真実(ほんとう)を探してる。
動き続ける時間の中で、変わり続ける私の中で。
目に映る全てが歪んだ世界の中で。
私の真実(ほんとう)は本当に本物ですか?
何が正しいかもわからなくなったこんな世界で。
例えばそれを言葉にするなら。
そう、この世界の全てはきっともう、私の夢で出来ている──。
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──ある日、私の元にやって来た一つの懐中時計。
十何年ぶりの修理の依頼。
私はとある街の、小さな時計職人(オルロジェ)。
そこにいる、本当の私に会いたいな。

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コメント
この世界は全部夢で出来ていて、
いつかそれに気づき本当の自分を見つけられるのでしょうね!
★Lakma★さんへ。
コメント、ありがとうございます。
嬉しいです。
そうですねぇ、確かにです。
この世界は全て夢で出来ている、なんて少し突拍子もないような発想ですけれど、そうすることで自分を見つけるきっかけになればと私も思います。